「意識の流れ」の手法を駆使し、革新的な小説を書き続けたヴァージニア・ウルフの代表作。
ウルフを本書ではじめて「意識の流れ」を自由に使いこなし、50代の女性を中心にある一日の動きを描ききっている。
はっきり言って、読みづらい作品であった。
いわゆる「意識の流れ」と呼ばれる手法の作品を読むのは僕は初めてなのだが、それだけに、人称がすぐにあっちこっちに飛んだり、同じ段落なのに唐突に、違和感無く違う人称に切り替わったりする筆致には驚きと同時に戸惑いを感じることは多かった。
確かにそれは斬新で刺激的である。しかし読んでいて感じるストレスは間違いなく大きい。
しかし、こういった流れる川のように滑らかに描出することが、あらゆる登場人物の内面を次から次へと描く上で、適していることは確かだろう。そしてこの小説の構造において、その描出がどれほど効果的かということも段々と見えてくる。
物語はあって無いようなものだ。
しかし流れるような意識の手法から、それぞれの人物の屈折した心情、嫉妬、複雑な感慨などが開示されていく様は圧巻ですらあった。その丁寧で細やかな描写によって、それぞれの人物がきっかりと三次元的な人物像へと形成される点がすばらしい。
そして各種の登場人物や、クラリッサ自身の独白から、クラリッサ・ダロウェイという一人物の人生が明確に浮かび上がってくる過程も見事なものである。
そのあまりに見事で美しい、小説の構造に、読みながら興奮すら覚えた。その技術は80年も前の小説なのに、いまでも全く新しい。
確かに本書は読みづらい。明確な物語性も薄く、楽しいと思うことはできないかもしれない。
しかし、そんな細かいことを気にせず、その小説構造の卓抜さや、流れる川のように静かに押し寄せてくる登場人物の感情をただ静かに受け止めればいいのだと思う。
そうすれば物語全体が圧倒的なまでに美しいということに気づくはずだろう。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
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